ひとり語り その2

現地観劇直後の興奮冷めやらぬ感想は既に書き殴ったので、ここでは配信(12/17 13時公演)も見返して思った事などを備忘録的に書きたいと思う(Xで呟いていたものも含む)

読んでも読まなくてもどちらでもいい第一弾のまとめはこちら

ひとり語り - 舞台感想置き場

 

くるむくんの芝居について

配信回だけでも3箇所ぐらい噛んでたんだけど噛んでも役は崩さず続けてたから、むしろそういう芝居のように観ることが出来てほとんど違和感なかった。

ウシロメタサが拐われる場面、「さ、拐われるぅ〜〜!」の言い方が妙に棒っぽいの、意図的かなと思った。心の何処かで拐われる事が満更でもない気持ちがあったのかなと。

現地で観た12/14昼公演のアドリブで、閉じ込められたウシロメタサが外の関係者たちと交渉する場面の「はい、上司に伝えておきます」、ジブンギライにツッコミする場面の「ってかあのポーズ何ィ?! もっとバリエーションなかったのぉ?!」好き。

ウシロメタサがジブンギライに振り回されたりする場面で少し声が裏返る部分がちょくちょくあるんだけど、その声好き。もっと聞かせて。

同じくウシロメタサが交渉する場面の台詞、どっかの上司と部下のやり取りとか電話対応でめっちゃ聞きそうな、いかにも口先だけですみたいな投げやりな言い方でクセになる。

ジブンギライがウシロメタサの真似をする場面のあざと可愛い仕草と表情、何気にそういうの今まで舞台では見た事なかった気がする。(チャリブラは可愛い系だったけどあざと系ではなかったので)可愛いにあざといを掛け合わせるんじゃない!余計に可愛いかよ!!

ジブンギライが「……2人で死んでみるか?」って言った後の2匹の曲の歌い方、追いかけっこをする様子があまりにも無垢で無邪気なんだよね。特に「このまま今が続いてと/願って泣いているの」に込められたウシロメタサの祈りのような願いを感じる歌い方が合わさって物凄く切なくなる。ウシロメタサが何をしようとしているのか察してしまうから。だからウシロメタサがジブンギライを殴って気絶させる展開は読めてたけど、殴る直前の覚悟を決めた表情を見た時点で涙が止まらなかった。いつの間にこんな演技出来るようになってたの聞いてない。

ウシロメタサを殺そうと寝かせる場面でそっと肩を抱え優しく後頭部に添えるジブンギライの手、気絶したジブンギライのおそらく肩の辺りを掴み顔の横に添えられたウシロメタサの手。どちらも相手に対する深い情を感じられる手の使い方だったのが好きだった。

終盤、仕切り直しの儀式を待つウシロメタサが、妄想のイキタガリと会話したりジブンギライからの手紙読んだりして動揺する場面での彷徨う手の演技がとても良かった。服を握ったり身体を触ったり何かを掴もうと握ったり開いたりと、とにかく手が落ち着かない動きをしているんだけど、それがウシロメタサの心情を言葉以上に雄弁に表していた。

今回目線の使い方と表情がとても良かった。事実を淡々と語りながら時折嘲笑するかのようなウシロメタサ、おどおどして視線を彷徨わせるジブンギライ、悲しみと痛みを共有して大切な存在になった互いを見る2匹の穏やかな瞳。どれもとても繊細に表現されていた。くるむくん自身が憑依型だからどの作品でも本人とは全く異なる顔になるのが好きなんだけど、今回はその域を超えていたというか。今回に関しては視覚的な顔つきの変化はあまりなかったけど纏う雰囲気が変わるような、今まで以上により内面に役が憑依しているような、そんな印象を受けた。個人的に1番好きだったのは、ジブンギライと心を通わせた事で生きたいという気持ちが掘り起こされて儀式に対する心境が揺れている時の、迷子のようにキョロキョロして怯えている目の動き。くるむくんの演技でその表情見るの超癖で大好きなんだけど、自分の「いきかた」という道に迷って迷子になっているように見えて涙腺が決壊した。

 

照明・セットについて

今まではどちらかというと照明や舞台セットは演者のサポートをするもの、世界観を作り上げる機構という認識があった。だが今回は一人舞台という特性もあるのか、照明や舞台セットそのものが演者の一部となって演技をしているかのような、そんな印象を受けた。

セットは柱の建て方が工夫されていて、上部に渡された梁や中央の踊り場舞台との位置関係でどの柱が前で後ろなのか一瞬錯覚して分からなくなる時があった。トリックアートのような舞台セットがとても面白かったし、敢えてそのように作られているのかなと思った。

そして死角となるような場所も多分意図的に多く作られていて、そこを使うことでより自然に役の切り替えが出来るようになっていたなと感じた。また照明が当たる事で表れる陰影が状況や心情をより鮮明に描き出しているようだった。

おそらく過去の事件の顛末をウシロメタサが話す場面だったと思うけど、下手の小舞台奥を青いスポットが照らしてゴボゴボという水音がフェードインし台詞に合わせて音がカットアウトした瞬間に少量のスモークがモワッと焚き上げられた演出があった。舞台上に居ないイキタガリの最期の様子が目の前にありありと描写されるような演出でゾクッとした。

蔵から出た後仕切り直しの儀式を行うため待機部屋に向かうウシロメタサを照らす照明が、交互に明滅を繰り返すスポットライトのみだったのが良かった。直前までの明るく色彩豊かな照明と対照的で、ウシロメタサの心情の変化がよく表されていたように感じた。

今回ウシロメタサが青、ジブンギライがオレンジというカラーで照明が使い分けられていた。2回目の儀式の場面で乱入したジブンギライを指し示すように客席中央の通路にオレンジのスポットライトが当てられた際、ちょうど自分の席列付近に当てられていたのとくるむくんの演技が相まって本当に真横にジブンギライがいるかのように錯覚した。照明の当て方がいきなりその場所を照らすのではなく、客席前方から移動させてその場所に止まる、という方法だったのも、ウシロメタサの視線を共有しているような感覚になりジブンギライがそこにいるかのように感じた要因だったのかなと思う。

ラスト、毛布を被りながら「当てにならなさすぎるな」と呟くウシロメタサに青とオレンジ両方のライトが当てられていて、横で寝てるだろうジブンギライの存在とくるむくん自身がどちらでもある(1人2役である)ことを暗示し様々な物語が岡宮来夢という一人の役者に集約されて終わる、そんな演出に思えて素敵だなと感じた。

 

脚本・演出について

まず福澤侑くん、振り付けしてくれて本当にありがとうございます。私はあなたの振り付けが大好きです。大好きな役者で大好きな振り付けが見られてこの上ない幸せでした。素晴らしいお仕事をしてくださりありがとうございました。

振り付けでも自然に役が切り替われるように工夫されているのが随所で分かり、演出とも合わさってノーストレスで色んな役を楽しむことができたのが良かった。

そして何よりも末原さんの脚本。今までで観た作品の中で1番言葉遣いが好き。台詞全部文字起こしして文章として読みたいぐらい大好きでした。文章の巧拙という基準は多少あれど最後は相性、好みだと思うので、私にとってはとても相性が良く素晴らしい脚本だったことがとても嬉しかった。

ウシロメタサがジブンギライに言う「君のあまりのクズさにツノがムズムズして生え替わりそうだよ」という台詞。苛立ちとか落ち着かなさを生え替わりのむず痒い感覚として表現するユーモアのセンス、とても好みです。仔山羊であるウシロメタサの特性を絡めつつツッコミ属性なキャラクター性を表現する言葉選びが上手いなと思った。

ウシロメタサがジブンギライに自分を殺して欲しいと頼む場面の「やけのやっぱち、自暴自棄で」という言い回し。この場面では、自暴自棄でどうでも良くなっておあつらえ向きな生贄の儀式があったからそれで死のうと思った、というウシロメタサの意思を伝えることが目的なので、それだけで言えば「やけのやっぱち」というフレーズは無くても成立する。「やけのやっぱち」「自暴自棄」という言葉を比較すると、イントネーションやリズム感が似ており、語尾で韻も踏んでいる。更に言えば、本来「やけっぱち」と表記する所を「やけのやっぱち」としたのは完全なる末原さんの造語である。そのためこのフレーズがあることによって、台詞としてのリズム感が生まれ台詞回しがよりスムーズに聞こえるようになり、ウシロメタサの意思をより強調していると私は感じた。この言葉遊び的な言い回しはぶっちゃけ個性とセンスで成り立つものだと思うので、こういう言葉遊びができる末原さんのセンスめちゃくちゃいいなと感激した。

終盤でウシロメタサが事件当時の事を回想する場面で出てくる「時間と共に閉じ込められた」という表現。狭く閉ざされた柱時計の中で時を刻む音と共に世界から隔絶されたような感覚と恐怖を表現しているのだが、その情景がこの短いフレーズに凝縮されている。ここは余分な装飾語は無しに非常に端的でそれでいて的確に表現されている。この表現の加減の使い分けがとても巧妙で、話の盛り上がりや緩急を感じられる言葉の使い方がとても上手いなと思った。

Amulet前の4曲目、物語のラストで歌う曲の歌詞がとても刺さったし好きだった。刺さった部分については第1弾で書いてるので割愛する。歌詞を見ると、糸・ほつれる・縫い合わせる、といった裁縫にまつわる言葉が出てくるのがとても印象的だった。仕立て屋になる夢を諦めたウシロメタサが、自分を受け入れて仕立てに関わる言葉で希望を歌う姿が、物語の結末としてとても美しかった。